奥定山渓温泉 佳松御苑 Okujozankeionsen Kashogyoen

札幌中心部から車で約1時間、支笏洞爺国立公園の深い森に抱かれる奥定山渓で、“滞在そのもの”を味わうための宿が「奥定山渓温泉 佳松御苑」。全客室がスイートで、森を望む展望風呂と独立したリビング・ベッドルームを備えるのが最大の特徴です。門をくぐると池泉を中心とした庭園が広がり、四季の彩りや風の通り道まで設計に織り込まれた空間が、到着直後から旅人の感覚をゆるやかに“森の時間”へと引き戻してくれます。住所は札幌市南区定山渓857。自家源泉の湯と食で“季（とき）を紡ぐ料理宿”を掲げる、奥定山渓の象徴的な存在です。

この宿は2018年6月に新築開業し、2022年にはレストランやロビーラウンジを池側へ増床。庭の景観と一体化した伸びやかな動線へと進化しました。“太古の森”と呼ぶ原生林、約3,000㎡の庭園と大きな池、そして水面に張り出す「かぜテラス」――建物のどこにいても風と季節を感じ取れるよう配慮されています。都市型ホテルとは異なる“場の力”が、奥定山渓らしい滞在価値を生んでいます。

客室は全23室。全てが「和スイート」で、窓の向こうに広がる森を独り占めしながら好きなときに湯浴みできる“森の展望風呂”付きです。内装は北海道のナラやタモといった木材を活かし、質感のある家具と落ち着いた灯りでまとめられています。プライベート感の高い設計は二人旅や記念日の滞在にとくに向き、荷解きした瞬間から“自分の時間”へ没入できるのが魅力です。

湯は“薄別（うすべつ）温泉”の自家源泉。泉質はカルシウム・ナトリウム－炭酸水素塩泉で、肌をやわらげる“美人の湯”として知られます（定山渓の中心街の泉質とは異なる独自性）。大浴場の喧噪から離れ、客室の展望風呂で森の音に耳を澄ませながらの入浴は、季節や時間帯で趣が変わる上質な体験。湯上がり後は窓際のソファで外気を感じつつ、ゆるやかに体温を落ち着かせるのもここならではの愉しみ方です。

食のコンセプトは“至極のオーベルジュ”。夕食はイタリアンの技法で北海道の旬を描くフルコース、朝食は体にやさしい和食膳という二毛作で、いずれも素材へのリスペクトを軸に構成されます。レストラン「日々の季」はディナー17:30–21:00、朝食7:00–9:00が基本。大きな窓から池や庭を望む席で、夜は余韻深いコースを、朝は清々しい光とともに整う食卓を――“夜と朝の別表情”を一つの会場で味わえる設えです。

館内の過ごし方は、景観と静けさを核に「余白」を楽しむ設計です。ロビーラウンジは池面に向けて開かれ、チェックイン後の一服や食後の談笑にちょうどよい間合い。客室では高速Wi-Fiや冷蔵庫、セーフティボックスなどの基本装備を備えつつ、テレビや照明も過剰にならないバランスを追求。24時間対応のフロント、ルームサービス、荷物預かり、無料の専用駐車場など“滞在の土台”は抜かりなく、静養から記念日ステイまで幅広い目的に応えます。

ロケーションは“札幌から近い秘境”。市街地から車で約60分で辿り着ける一方、周囲は国立公園の緑と川音に包まれます。夏は新緑と朝霧、秋は錦繍、冬は粉雪と静寂――四季の美しさがストレートに届く環境は、短期旅行でも“非日常の密度”を高めてくれます。定山渓温泉街や豊平峡ダム、秋の紅葉名所へのドライブ拠点としても優秀です。

レビューの傾向を見ると、「スタッフのもてなし」「客室と庭・池の眺め」「イタリアンの夕食」「記念日の演出」への満足度が高く、再訪意欲の高さが目立ちます。一方、静けさを尊ぶ宿だけに“館内エンタメの少なさ”や“価格は相応”といった声もあり、選ぶべきは“何をしないかを決める旅”。読書や対話、外の気配を感じるバスタイムなど、時間の流れそのものを愉しむほど、この宿の価値が立ち上がるはずです。

予約の際は、希望の眺望や広さ、記念日の要望を事前に相談すると最適な提案が受けやすく、食物アレルギーの対応もスムーズです。季節や仕入れにより献立や提供時間が変わることがあるため、直前情報の確認がベター。雪季は道路状況に余裕を持った到着計画を、夏は夕暮れの散策時間を確保するのがおすすめです。

総じて「奥定山渓温泉 佳松御苑」は、全23室のスイートと自家源泉、庭と池、森の気配、そして“奥定山渓イタリアン”が織りなす“静と贅”の結晶のような宿。なにかを“足す”のではなく、“削ぎ落として残るもの”に価値を見出す旅人にこそ響きます。札幌から近いのに遠い――その距離感の妙が、到着から出発までの一挙手一投足を豊かにしてくれるでしょう。